新しいバイトにフリッパーズギターを好きだという人がいた。見た目はさえないおじさん。年はぼくとひとつしか違わない。
「お笑いが好きで、YMOを好きになって、テクノ好きになって、クラブに通うようになって、ハウスを聞いたときは身体に『これだー』って電流が走った。」
とか言う。世代を代表しているような口振りで、ぼくとはまったく違う経験をしている。
電気のオールナイトニッポンを聞いてたって言ったら、「じゃあ立派な大人ですね」とか言う。愉快だった。


そして今日。
事務室で休憩していたらその人が入ってきて、「覚えることが多すぎて、この仕事に向いてないみたい」と言って、仕事の途中で帰ってしまった。このあいだの話が、ぼくの妄想だったみたいに、煙みたいに消えた。お元気でと言ったら、もうドアを閉めて行ってしまった。防犯カメラのモニターに彼が映っていて、誰にも何も言わずに行ってしまった。


ぼくだってこんな仕事だいきらいだ。正常競争みたいな、こんな仕事、だいきらいだ。


wooden heart という曲を聴いた。とてもやさしい歌。
いまはとてもさみしいけど、さみしさを感じる同じ心が、いつかやさしさにつつまれるのだから、今はこれでいいんだと思った。