稲垣足穂『A感覚とV感覚』*1を読んだ。
Aとはアナル、Vはヴァギナを指している。
常から「なぜそれに惹かれるのかわからないもの」について考えてきた。
生き続けたい、何かを手に入れたいという欲望とは別種の、対象の見えにくい、それだけにいや増しになる乾きについて。
この小品のなかに、二度もそれについて直接に書いてあったので、そのまま引いてみる。


云わば見当のつかぬ痒ゆい場所に似たものである。これによるところの、そこはかとない牽引のために p333
これに反してA感覚にはつばさがある。というのも、それがえたいの知れぬ渇望におかれたものであるからです。 p346


「そこはかとない牽引」というのが良い。牽引に貨物列車を二十台でも引きそうな強引さがあり、添えられた副詞とのミスマッチ。
「なぜそれに惹かれるのかわからないもの」について、これほどの密度で書かれたものに出会ったのは初めてだ。それがA感覚について書かれていればこそ、なのかもしれない。